歯列矯正治療を受けると、多くの方が程度の差こそあれ、食事に関する何らかの「制限」や「変化」を経験します。この食事の変化が、体重に影響を与える主な要因と考えられます。まず、矯正装置(特にワイヤーとブラケット)を装着すると、物理的に食べにくいものが増えます。例えば、リンゴやおせんべいのような硬いもの、お餅やキャラメルのような粘着性の高いもの、ほうれん草やえのきのような繊維質のものは、装置に絡まったり、装置を破損させたりするリスクがあるため、避けるように指導されることが一般的です。また、装置の装着直後や、月に一度の調整後などは、歯が動くことによる痛みや違和感で、食欲が減退したり、噛む力の必要なものが食べられなくなったりすることがあります。その結果、自然と柔らかく消化の良いもの、例えばスープやおかゆ、うどん、ヨーグルト、豆腐などを選ぶ機会が増え、摂取カロリーが以前よりも低下する傾向が見られます。さらに、矯正装置の間には食べ物のカスが非常に詰まりやすいため、食後の歯磨きが必須となります。この歯磨きの煩わしさから、間食の回数を減らす人も少なくありません。「食べるたびに歯磨きをするのが面倒だから、おやつは我慢しよう」という心理が働くのです。マウスピース型矯正装置の場合も、食事の際には装置を取り外し、食後に歯を磨いてから再び装着するという手間があるため、同様に間食が減る傾向が見られます。これらの食事内容の変化や食習慣の変化が積み重なり、結果として総摂取カロリーが減少し、体重が減るという現象が起こるのです。ただし、これはあくまで一時的な変化であることが多く、装置に慣れてきたり、痛みが軽減したりするにつれて、徐々に食べられるものの種類や量も増え、体重も安定してくるのが一般的です。重要なのは、体重の変化に一喜一憂するのではなく、矯正期間中も栄養バランスの取れた食事を心がけ、健康的に治療を乗り越えることです。