インターネット上や口コミなどで、「夜だけ装置をつければ歯並びが治る」「手軽に矯正できる方法がある」といった情報を見かけることがあるかもしれません。しかし、これらの「夜だけ矯正」の噂には、誤解を招きやすい情報や、科学的根拠に乏しいものも含まれているため、注意が必要です。まず、歯を積極的に動かして歯並びを根本的に改善する本格的な矯正治療において、「夜だけの装置装着」で十分な効果が得られることは、現在の歯科医学の常識では考えにくいです。歯を動かすためには、一定時間以上、持続的に適切な力を加え続ける必要があり、夜間のみの数時間の装着では、歯が移動する前に元の位置に戻ろうとする力が勝ってしまう可能性が高いからです。ただし、この「夜だけ」という言葉が、特定の状況や装置を指している場合には、あながち間違いとは言えないケースもあります。例えば、前述したように、矯正治療後の「リテーナー(保定装置)」は、歯並びが安定すれば夜間のみの装着で維持を図ることがあります。また、子供の成長期に用いる一部の「機能的矯正装置」や「ヘッドギア」なども、学校生活への影響を考慮して、主に夜間に使用されることがあります。さらに、ごく軽微な歯のズレや、特定の癖(例えば、軽い舌突出癖など)を改善するための、ごく簡易的なマウスピースのようなものを、一時的に夜間使用するというケースも、もしかしたら存在するかもしれません。しかし、これらはあくまで限定的な状況であり、全ての出っ歯やガタガタの歯並びが「夜だけ」の装置で治るわけでは決してありません。重要なのは、どのような歯並びの悩みを、どのような方法で、どの程度の期間で治したいのか、そしてその治療法が医学的に妥当で安全なものなのかを、専門家である歯科医師に相談し、正確な情報を得ることです。安易な情報に飛びつかず、メリットだけでなくデメリットやリスクも十分に理解した上で、適切な治療法を選択することが、後悔のない歯列矯正への第一歩となります。