今回は、歯列矯正治療を途中で中断された経験を持つAさんに、当時の心境やその後の変化についてお話を伺いました。Aさんは20代後半で、見た目のコンプレックス解消と噛み合わせ改善を目的に矯正治療を開始されましたが、約1年半で治療を中断されたそうです。「治療を始めた当初は、数年後には綺麗な歯並びになっている自分を想像して、とてもワクワクしていました。最初の数ヶ月は痛みや話しにくさもありましたが、それは想定内でしたし、頑張れると思っていました」とAさんは振り返ります。しかし、治療開始から1年が過ぎた頃、Aさんの仕事が非常に忙しくなり、生活が一変しました。「残業や休日出勤が続き、心身ともに疲弊していました。そんな中で、毎月の調整のための通院が大きな負担に感じるようになったんです。口内炎もできやすくなり、食事もままならないこともあって、精神的に追い詰められていきました」。Aさんは担当医に相談することも考えましたが、多忙さからそれも億劫になり、徐々に足が遠のいてしまったと言います。「先生はとても親身な方でしたが、当時の私にはその優しささえもプレッシャーに感じてしまうほど、気持ちに余裕がありませんでした。治療の進捗も、自分が期待していたよりも遅いように感じてしまい、このまま続けても本当に終わるのだろうか、という疑念も芽生えていました」。中断を決意した直接のきっかけは、大きなプロジェクトが終わり、少し気持ちに余裕ができた時だったそうです。「ふと鏡を見た時、まだ満足のいく状態ではない歯並びと、口の中の装置が急に嫌になったんです。もうこれ以上、このストレスを抱え続けたくない、と強く思いました。その日のうちにクリニックに電話し、中断したい旨を伝えました」。クリニックからは、中断のリスクについて説明があり、一度来院して話をするよう促されましたが、Aさんの決意は固かったと言います。「もちろん、後戻りのリスクや、それまでかけた費用が無駄になるかもしれないことは理解していました。でも、それ以上に、精神的な解放を求めていたのだと思います」。