歯列矯正の旅路において、多くの人が中盤から終盤にかけて直面する、地味で、面倒で、しかし極めて重要なミッション。それが「ゴムかけ(顎間ゴム)」です。一見すると、ただ小さなゴムをブラケットに引っ掛けるだけの単純作業。しかし、このゴムかけを真面目に取り組むかどうかが、治療が早く終わるか、あるいは長引いてしまうかを左右する、最大の分岐点と言っても過言ではありません。ゴムかけの主な目的は、ワイヤーだけでは難しい、上下の歯の噛み合わせを緊密に仕上げることです。例えば、上の犬歯と下の第一大臼歯にゴムをかけることで、出っ歯の傾向を改善したり、上下の歯の真ん中(正中)を合わせたり、歯と歯の隙間を閉じたりと、ミリ単位での精密なコントロールを行います。ワイヤーが歯をレールに沿って動かす「水平方向」の力だとすれば、ゴムかけは歯を正しい位置に噛み合わせるための「垂直方向」の仕上げの力なのです。このゴムかけの効果を最大限に発揮させるための絶対条件は、歯科医師から指示された「装着時間を守る」ことです。多くの場合、「食事と歯磨きの時以外は、24時間装着してください」と指示されます。つまり、1日のうち20時間以上は装着している必要があるのです。この時間を守れず、「日中は外して、夜寝る時だけ」といった自己流の使い方をしてしまうと、ゴムの効果はほとんど現れません。歯は、常に元の位置に戻ろうとする力が働いています。短い時間だけゴムをかけても、外している間に後戻りしてしまい、結果として、行ったり来たりを繰り返すだけで、治療が一向に進まないのです。見た目が気になる、しゃべりにくい、付け外しが面倒。その気持ちは痛いほど分かります。しかし、この地味な作業をサボったがために、治療期間が数ヶ月も延びてしまった、というケースは後を絶ちません。ゴムかけは、美しい噛み合わせというゴールテープを切るための、最後の、そして最も重要なスパートです。その面倒くささの先には、予定よりも早く手に入れられる最高の笑顔が待っている。そう信じて、今日から真面目にゴムかけに取り組んでみませんか。