「日中は仕事や学業で忙しくて、頻繁に通院したり、目立つ装置をつけたりするのは難しい…でも歯並びは治したい」そう考える方にとって、「夜間中心の矯正治療」という言葉は魅力的に聞こえるかもしれません。しかし、この言葉が具体的にどのような治療を指すのか、そしてその現実的な効果はどうなのかを正しく理解しておく必要があります。まず、歯を積極的に動かす段階の本格的な矯正治療において、装置の装着が「夜間中心」あるいは「夜間のみ」で済むというケースは非常に稀であり、限定的です。前述の通り、歯を効率的に動かすためには、持続的な力の作用が不可欠だからです。ただし、治療法や装置の種類によっては、患者さんのライフスタイルにある程度配慮した選択肢も存在します。例えば、「マウスピース型矯正装置」は、1日20時間以上の装着が必要ですが、食事や歯磨きの際には取り外しが可能です。そのため、重要な会議やプレゼンテーションの時だけ一時的に外す、といった柔軟な対応が(推奨はされませんが)不可能ではありません。また、通院頻度もワイヤー矯正に比べて少ない傾向にあるため、忙しい方にとっては比較的取り入れやすい治療法と言えるかもしれません。さらに、「舌側矯正(裏側矯正)」は、歯の裏側に装置を装着するため、正面からは全く見えません。日中の見た目を気にせずに本格的な矯正治療を受けたいという方には適しています。ただし、これらの治療法も、決して「夜間だけ頑張れば良い」というものではありません。マウスピース矯正は自己管理が非常に重要ですし、舌側矯正も24時間装置を装着したままです。もし、「夜間中心」という言葉が、子供の成長期に用いる一部の取り外し式装置や、矯正治療後の保定装置(リテーナー)を指しているのであれば、それは限定的な状況下での話であり、大人の歯並び全体を治す治療とは異なります。日中忙しい方が歯列矯正を検討する際には、まず自分のライフスタイルや譲れない条件(見た目、費用、期間など)を明確にし、その上で、複数の矯正歯科でカウンセリングを受け、それぞれの治療法のメリット・デメリット、そして現実的に継続可能かどうかを、歯科医師と十分に話し合うことが重要です。
日中忙しい人向け?夜間中心矯正の現実