「歯を削る」と聞くと、多くの人が虫歯治療の際に経験する「キュイーン」という音や、麻酔の注射、そして痛みを連想し、強い恐怖心を感じてしまうかもしれません。しかし、歯列矯正で行われるIPRは、虫歯治療とは全くの別物。その処置内容と安全性を正しく理解すれば、過度な不安はきっと和らぐはずです。まず、皆さんが最も心配される「痛み」についてですが、結論から言うと、IPRの処置中に痛みを感じることはほとんどありません。そのため、麻酔を使用することも通常はありません。なぜなら、IPRで削るのは、歯の最も外側を覆っている「エナメル質」という部分だけであり、このエナメル質には神経が通っていないからです。痛みを感じる神経は、その内側にある象牙質に存在します。IPRは、この神経のある層まで到達することは絶対にありません。処置中は、歯が押されたり、振動したりする感覚はありますが、鋭い痛みはないのです。次に、「安全性」についてです。IPRで削る量は、歯1本あたりの両側面を合わせても、最大で約0.5mmと厳密に定められています。これは、髪の毛に例えるとわずか数本分程度の厚みです。歯の健康を支えるエナメル質の厚さは約1〜2mmありますから、その範囲内でごく表層を削るだけなので、歯がもろくなったり、虫歯になりやすくなったり、歯の寿命が縮まったりすることはないと、多くの研究によって証明されています。では、実際の処置はどのように行われるのでしょうか。主に二つの方法があります。一つは、目の細かいヤスリのようなストリップ(紙や金属の短冊)を歯と歯の間に通し、手で優しく擦って削る方法。もう一つは、歯科用のエンジンに装着した極薄のディスク(円盤状のヤスリ)を回転させて削る方法です。どちらの方法を用いるかは、削る量や部位によって歯科医師が判断します。処置時間は、数本の歯であれば10〜15分程度で終了します。IPRは、ドリルで歯を大きく削るような怖い処置ではありません。緻密な計画のもと、歯の健康を最優先に考えながら、繊細な手技で行われる安全な医療技術なのです。