まさか自分が歯列矯正を途中でやめるなんて、治療を始めた頃は夢にも思っていませんでした。長年のコンプレックスだった歯並びを治すため、一大決心をして始めた矯正治療。最初の数ヶ月は、装置の違和感や食事のしにくさ、そして何より締め付けられるような痛みに耐える日々でした。それでも、鏡を見るたびに少しずつ歯が動いているのを感じ、「これが終われば綺麗な歯並びが手に入るんだ」と自分に言い聞かせ、なんとか乗り越えていました。しかし、治療が1年を過ぎた頃から、私の心に変化が生じ始めました。思ったよりも治療期間が長引きそうで、終わりが見えない不安。そして、毎月の調整費用の負担も徐々に重くのしかかってきました。仕事のストレスも重なり、「もう限界かもしれない」という弱音が日に日に大きくなっていったのです。担当の先生に相談することも考えましたが、言い出しにくい気持ちと、「もう少し頑張れば」という周囲の期待に応えたい気持ちの間で揺れ動きました。結局、誰にも深く相談できないまま、ある日突然、通院をやめてしまいました。装置を自分で外すことはしなかったものの、次の予約をキャンセルし、そのままフェードアウトする形です。最初の数週間は、口の中から装置の圧迫感が消え、何とも言えない解放感がありました。「これで痛みからも解放されるし、好きなものを気にせず食べられる」と。しかし、その解放感は長くは続きませんでした。数ヶ月が経つ頃には、明らかに歯が元の位置に戻ろうとしているのを感じ始めたのです。特に前歯の隙間が再び目立つようになり、鏡を見るのが辛くなりました。せっかく高い費用と時間をかけて動かした歯が、いとも簡単に元に戻っていく様を目の当たりにし、深い後悔の念に襲われました。「あの時、もう少し頑張っていれば」「先生にちゃんと相談していれば」という思いが頭の中をぐるぐると巡ります。食事の際も、以前より噛み合わせが悪くなったように感じ、肩こりや頭痛も頻繁に起こるようになりました。