歯列矯正治療において、多くの装置は歯を効率的に動かすために長時間の装着が必要とされますが、中には「夜間装着が中心」あるいは「夜間のみの装着」で効果を発揮する特殊な装置も存在します。これらは主に、歯を積極的に動かすというよりは、顎の成長をコントロールしたり、治療後の歯並びを安定させたりする目的で使用されます。代表的なものの一つが、「機能的矯正装置」と呼ばれるものです。これは、主に成長期のお子さんの下顎の成長を前方に誘導したり、上顎の過成長を抑制したりするために用いられる装置で、取り外し可能なものが多く、学校生活への影響を考慮して、在宅時や就寝中の装着が中心となることがあります。例えば、下顎が後退していることによる出っ歯(上顎前突)の治療に用いられる「バイオネーター」や「フレンケル装置」などがこれに該当します。これらの装置は、噛む力や唇、頬の筋肉の力を利用して、顎の骨の成長方向を望ましい方向へ導く働きをします。次に、「ヘッドギア」も夜間装着が中心となることがある装置です。ヘッドギアは、頭部や首を固定源として、奥歯を後方へ移動させたり、上顎の成長を抑制したりする目的で使用されます。見た目が大きく、日中の装着が難しいため、主に就寝中に使用されることが多いです。そして、最も一般的に夜間装着が行われるのが、「リテーナー(保定装置)」です。これは、歯列矯正治療で歯を動かし終わった後に、歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」を防ぐために使用される装置です。治療終了直後は日中も含めて長時間の装着が必要とされることが多いですが、歯並びが安定してくるにつれて、徐々に装着時間を短縮し、最終的には夜間のみの装着で維持を図るというケースが一般的です。ただし、これらの装置が夜間装着中心であるからといって、自己判断で装着時間を変えてしまうのは禁物です。必ず歯科医師の指示に従い、適切な時間、適切な方法で使用することが、治療効果を得るために不可欠です。歯を積極的に動かす段階の矯正装置とは目的や使用方法が異なることを理解しておく必要があります。