近年、患者様のニーズの多様化に伴い、歯列矯正治療においても「短期間で治したい」というご要望が増えています。この声に応える形で、様々な短期間歯列矯正のアプローチが登場していますが、その実態や可能性について、専門家の立場からお話ししたいと思います。まずご理解いただきたいのは、「短期間」という言葉の定義は患者様の期待値や歯並びの状態によって大きく異なるという点です。一般的に数ヶ月から一年程度で治療が完了する場合を指すことが多いですが、全ての症例に適応できるわけではありません。短期間での治療が可能なケースとしては、前歯の軽微な叢生(ガタガタ)や空隙(すきっ歯)といった、歯を動かす範囲が限定的な場合が挙げられます。このような部分矯正では、全体の歯を動かす必要がないため、治療期間を大幅に短縮できます。また、セラミッククラウンなどを用いて歯の形や向きを修正することで、見た目を短期間で改善する方法もありますが、これは厳密には歯を動かす矯正治療とは異なり、健康な歯を削る必要がある点を理解しておく必要があります。一方で、外科手術を伴う矯正治療や、歯の移動を促進する特殊な装置(例えば、光加速矯正装置や振動型加速装置など)を併用することで、従来よりも治療期間を短縮する試みも行われています。これらの方法は、適応症例を見極め、メリットとデメリットを十分に理解した上で選択することが重要です。短期間歯列矯正を希望される患者様に対して、我々歯科医師が最も重視するのは、見た目の改善だけでなく、咬み合わせの機能性や長期的な安定性、そして何よりも患者様の口腔内の健康です。期間の短縮ばかりを追求するあまり、これらの要素が疎かになっては本末転倒です。したがって、カウンセリングでは、患者様のご希望を丁寧にお伺いした上で、科学的根拠に基づいた最適な治療計画をご提案し、治療の限界やリスクについても包み隠さずお伝えすることを心がけています。短期間歯列矯正は、適切に行われれば患者様のQOLを大きく向上させる可能性を秘めていますが、そのためには歯科医師と患者様との間の十分なコミュニケーションと信頼関係が不可欠であると言えるでしょう。
歯科医師に聞く!短期間歯列矯正の真実と可能性