「挺出(ていしゅつ)」とは、歯が本来あるべき位置から伸び出してしまっている状態を指します。最も一般的な原因は、噛み合う相手の歯(対合歯)を失ったまま長期間放置してしまうことです。例えば、下の奥歯が虫歯や歯周病で抜けてしまった場合、それまで噛み合っていた上の奥歯は、噛む刺激がなくなることで徐々に下へ下へと伸びてきてしまいます。この挺出した歯は、いくつかの問題を引き起こします。まず、見た目の問題として、歯の長さが不揃いになり、審美性が損なわれます。また、伸び出した歯が下の歯茎や頬の粘膜を噛んでしまい、痛みや口内炎の原因になることもあります。さらに、将来的に失った歯の部分にブリッジやインプラント治療を行おうとした際に、挺出した歯が邪魔になり、十分なスペースが確保できないため、治療が困難になる、あるいは不可能になるケースもあります。このような挺出した歯を元の正しい位置に戻すための治療法が、歯列矯正による「圧下」です。圧下治療では、挺出した歯に矯正装置(ブラケットやワイヤー)を装着し、それを固定源(例えば、隣の歯やアンカースクリューなど)に連結して、歯を歯茎の方向に引き上げる力を加えます。アンカースクリューを使用する場合、挺出した歯の近くの歯槽骨に小さなネジを埋め込み、そこから直接、あるいは間接的に歯を引っ張り上げることで、より効率的かつ確実に圧下を行うことができます。圧下治療によって歯が元の位置に戻れば、審美性の改善はもちろんのこと、将来的な補綴治療(ブリッジやインプラント)のためのスペースを確保することができます。ただし、圧下は歯の移動の中でも比較的コントロールが難しく、治療期間も症例によって異なります。また、歯根の状態や周囲の骨の状態によっては、圧下が適さない場合もあります。挺出した歯でお悩みの方は、まずは矯正歯科医に相談し、適切な診断と治療計画について説明を受けることが大切です。