歯列矯正を成功させるためには、多くの場合、歯をきれいに並べるための「スペース」を確保する必要があります。そのスペース作りのための代表的な方法が、「歯を削る(IPR)」と「歯を抜く(抜歯)」という二つの選択肢です。どちらの方法を選ぶかは、治療の仕上がりや期間、口元の印象を大きく左右する、非常に重要な分岐点となります。この二つの方法は、根本的に「確保できるスペースの量」が異なります。IPRは、歯のエナメル質をわずかに削る方法であり、1本の歯から得られるスペースは最大でも0.5mm程度です。全ての歯を削ったとしても、全体で確保できるスペースは4〜5mm程度が限界となります。したがって、IPRは、歯のがたつきが比較的軽度で、わずかなスペースがあれば歯が並ぶという症例に適しています。一方、抜歯は、主に前から4番目か5番目の小臼歯を抜くことが多く、歯1本分のスペース、つまり約7〜8mmという大きなスペースを確保することができます。上下左右で4本抜歯すれば、30mm近い広大なスペースが生まれます。このため、歯のがたつきが非常に大きい重度の叢生や、口元の突出感が強く、前歯を大きく後ろに下げる必要がある症例では、抜歯が不可欠な選択となります。治療後の「口元の印象の変化」も大きな違いです。IPRは歯を動かす距離が少ないため、治療前後で顔の印象が大きく変わることはありません。現状の口元の印象を維持しつつ、歯並びだけを整えたいという方に向いています。対して、抜歯矯正は前歯を大きく後退させることが可能なため、「口ゴボ」と表現されるような口元の突出感を劇的に改善し、Eラインの整ったすっきりとした横顔を手に入れることができます。ただし、下げすぎると口元が寂しい印象になるリスクも伴います。治療期間も、一般的には歯を動かす距離が短いIPRの方が、抜歯矯正に比べて短くなる傾向にあります。どちらの方法が良い・悪いということではありません。あなたの骨格、歯並びの状態、そしてあなたがどのようなゴールを目指すのか。それらを総合的に判断し、最適な方法を選択することが、後悔のない矯正治療への鍵となるのです。
削るか抜くか?歯列矯正におけるスペース作りの大きな選択